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CHAPTER02ARTICLE05

流体力学 / 支配方程式を立てる

FLUID MECHANICS · 02–05 / 発展

ナビエ–ストークス方程式Navier–Stokes equation

流体がなぜ動き、圧力や粘性がその動きをどう変えるのか。身近なイメージから非圧縮ニュートン流体の運動方程式まで段階的に解説します。

読了目安 16分2026-08-13定義・式・単位を出典照合EN version

要旨

流体の速度は、圧力に押され、重力を受け、粘性によって周囲の流体と影響し合いながら変化する。ナビエ–ストークス方程式は、この「速度の変化」と「流体に働く力」の関係を表したニュートンの第2法則である。

速い層遅い層運動量が下へ伝わる粘性は二つの層の速度差を小さくする
02.

30秒で理解

水を押せば流れ始め、押すのをやめれば壁との摩擦や粘性によって次第に遅くなる。流体の速度は、流体に働く力によって変化する。

ナビエ–ストークス方程式は、その関係を「流体の加速度=圧力による力+粘性による力+重力など」と表した式である。流体版のニュートンの第2法則と考えるとよい。

03.

粘性は速度差をならす

隣り合う二つの流体層を考える。上の層が速く、下の層が遅いとき、粘性は上の層を引き止めると同時に、下の層を引っ張る。結果として、二つの層の速度差は小さくなる。

このとき、速い層がもつ運動量の一部が遅い層へ伝わる。この働きを運動量の拡散という。水より蜂蜜のほうが速度差を強くならそうとするのは、粘度が大きいためである。

ニュートン流体では、せん断応力 τ\boldsymbol{\tau} は速度が位置によって変わる割合 du/dy\mathrm d u/\mathrm d y に比例する。比例係数 μ\mu が粘度である。

速い層遅い層運動量が下へ伝わる粘性は二つの層の速度差を小さくする
式 (1)ニュートンの粘性法則
τ=μdudy\tau=\mu\frac{\mathrm du}{\mathrm dy}
式 (2)粘性による運動量拡散
fvisc,x=μ∂2u∂y2f_{\mathrm{visc},x}=\mu\frac{\partial^2u}{\partial y^2}
04.

まず、流体に働く力を整理する

小さな流体のかたまりを一つ取り出して考える。その速度を変える主な原因は、周囲との圧力差、隣の流体との粘性、そして重力などである。これらの合力が流体の加速度を生む。

式 (3) は、この関係をどの方向の流れにも使えるようにまとめた一般の運動方程式である。左辺は流体粒子の加速度、右辺の三項は順に圧力、粘性、物体力の効果を表す。

式 (3)流体粒子の運動方程式
ρDuDt=−∇p+∇⋅τ+ρb\rho\frac{\mathrm D\boldsymbol{u}}{\mathrm D t}=-\nabla p+\nabla\cdot\boldsymbol{\tau}+\rho\boldsymbol{b}
05.

ナビエ–ストークス方程式へ進む

ここから、密度と粘度が一定の非圧縮ニュートン流体に範囲を絞る。この条件では、複雑な粘性力を μ∇2u\mu\nabla^2\boldsymbol{u} とまとめられる [1,2]。

式 (3) の粘性力を置き換えると式 (4) を得る。長く見えるが、左辺は加速度、右辺は圧力・粘性・物体力であり、式 (3) と構造は同じである。

式 (5) は、非圧縮流体では一つの場所に流体が湧き出したり消えたりしないことを表す。実際の計算では式 (4) と式 (5) を組み合わせ、速度と圧力を求める。

式 (4)非圧縮ナビエ–ストークス方程式
ρ{∂u∂t+(u⋅∇)u}=−∇p+μ∇2u+ρb\rho\left\{\frac{\partial\boldsymbol{u}}{\partial t}+(\boldsymbol{u}\cdot\nabla)\boldsymbol{u}\right\}=-\nabla p+\mu\nabla^2\boldsymbol{u}+\rho\boldsymbol{b}
式 (5)非圧縮の連続の式
∇⋅u=0\nabla\cdot\boldsymbol{u}=0
06.

記号・単位

式 (4) の各項は単位体積当たりの力 N/m3\mathrm{N/m^3} で統一される。粘度 μ\mu のSI単位は Pa⋅s\mathrm{Pa{\cdot}s}、動粘度 ν=μ/ρ\nu=\mu/\rho のSI単位は m2/s\mathrm{m^2/s} である [4]。

主要な記号とSI単位
記号意味SI単位
ρ\rho密度kg/m3\mathrm{kg/m^3}
u\boldsymbol{u}速度ベクトルm/s\mathrm{m/s}
p\boldsymbol{p}圧力Pa\mathrm{Pa}
μ\mu粘度Pa⋅s\mathrm{Pa{\cdot}s}
ν\nu動粘度m2/s\mathrm{m^2/s}
b\boldsymbol{b}単位質量当たりの物体力m/s2\mathrm{m/s^2}
07.

各項が表すもの

方程式は、流体粒子の運動量変化と、その原因となる力を同じ場所・同じ時刻で結んでいる。

局所加速度
∂u/∂t\partial\boldsymbol{u}/\partial t。固定点で速度が時間変化する効果。
移流加速度
(u⋅∇)u(\boldsymbol{u}\cdot\nabla)\boldsymbol{u}。粒子が速度の異なる場所へ移る効果。
圧力項
−∇p-\nabla p。高圧側から低圧側へ流体を押す。
粘性項
μ∇2u\mu\nabla^2\boldsymbol{u}。速度差をならすように運動量を拡散する。
物体力
ρb\rho\boldsymbol{b}。重力など、体積全体に作用する力。
08.

使用条件・一般形との違い

式 (4) は非圧縮・ニュートン流体・一定粘度を仮定した形である。気体の高速流、温度差による大きな物性変化、非ニュートン流体では、質量・エネルギー保存則と適切な構成式を含む一般形が必要になる。

非圧縮
密度一定の近似。低速の液体流れなどで有効。
ニュートン流体
粘性応力が変形速度に線形比例する。
境界条件
壁面では通常、流体速度を壁面速度に一致させる非すべり条件を課す。
乱流
瞬時場には方程式が成り立つが、実務計算では非常に細かな時空間スケールまたは乱流モデルが必要。
09.

例題:平行平板間の定常流

圧力勾配で駆動される十分に発達した平行平板間流れを考える。流れ方向を xx、壁に垂直な方向を yy とし、u=u(y)u=u(y)、定常、重力の xx 成分なしとする。

式 (4) の xx 成分は式 (6) まで簡単になる。圧力勾配が一定なら二度積分して放物線速度分布を得る。壁面の非すべり条件が積分定数を決める。

式 (6)十分に発達した流れの支配式
0=−dpdx+μd2udy20=-\frac{\mathrm dp}{\mathrm dx}+\mu\frac{\mathrm d^2u}{\mathrm dy^2}
式 (7)平行平板間の速度分布
u(y)=−12μdpdx(h2−y2)u(y)=-\frac{1}{2\mu}\frac{\mathrm dp}{\mathrm dx}\left(h^2-y^2\right)
10.

よくある間違い

長い式を暗記するより、どの項を仮定によって消したかを記録する。

非圧縮なら圧力一定
非圧縮は密度一定の近似であり、圧力は空間的に変化できる。
定常なら左辺すべて0
局所加速度は0でも移流加速度は残り得る。
粘性項は常に μ∇²u
一定粘度・非圧縮ニュートン流体で得られる簡略形である。
方程式だけで解が決まる
初期条件・境界条件と連続の式が必要である。
11.

応用・次に学ぶ内容

配管流れ、境界層、翼や車体まわりの流れ、熱流動、潤滑、気象・海洋、血流、CFDの基礎となる。解析解を得られる例は限られるため、多くの実務問題では数値計算を用いる。

次は式中の慣性項と粘性項の比を表すレイノルズ数を学ぶと、どの効果が支配的か、どの近似が妥当かを判断しやすくなる。

参考文献