EngiAtlas 知識マップ
CHAPTER02ARTICLE04

流体力学 / 支配方程式を立てる

FLUID MECHANICS · 02–04 / 発展

オイラー方程式Euler equation

粘性を無視できる流れについて、圧力勾配・物体力と流体粒子の加速度を結ぶ運動方程式を導き、適用範囲を整理します。

読了目安 13分2026-08-13定義・式・単位を出典照合EN version

要旨

オイラー方程式は、非粘性流体の運動量保存則を局所的に表す。流体粒子の加速度は圧力勾配と重力などの物体力によって生じ、定常・流線方向へ積分するとベルヌーイの式につながる。

02.

30秒で理解

オイラー方程式は、流体粒子にニュートンの第2法則を適用した式である。ただし粘性による摩擦力を無視し、圧力による力と重力などの物体力が粒子を加速すると考える。

左辺は粒子が実際に経験する加速度であり、固定点での時間変化と、速度の異なる場所へ移動することによる変化を含む。

03.

微小な流体要素に働く力

体積 dV\mathrm dV、密度 ρ\rho の微小な流体要素を考える。圧力は要素の全表面に作用するが、反対側の圧力が少し異なるため、合力は −∇p-\nabla p dV\mathrm dV となる。負号は圧力が低下する向きへ力が働くことを表す。

単位質量当たりの物体力を b\boldsymbol{b} とすると、重力などの力は ρb\rho\boldsymbol{b} dV\mathrm dV である。質量 ρ dV\rho\,\mathrm dV と物質加速度 Du/Dt\mathrm D\boldsymbol{u}/\mathrm D t を用いてニュートンの第2法則を立てる。

p(x)p(x)
p(x+dx)p(x+\mathrm dx)
ρ dV\rho\,\mathrm dV
流体要素
DuDt\frac{\mathrm D\boldsymbol{u}}{\mathrm D t}
ρb dV\rho\boldsymbol{b}\,\mathrm dV
式 (1)微小要素の力のつり合い
ρ dVDuDt=−∇p dV+ρb dV\rho\,\mathrm dV\frac{\mathrm D\boldsymbol{u}}{\mathrm D t}=-\nabla p\,\mathrm dV+\rho\boldsymbol{b}\,\mathrm dV
04.

オイラー方程式

式 (1) を体積 dV\mathrm dV で除すと、非粘性流体の局所的な運動方程式を得る [1,2]。密度が一定でなくても、この形自体は用いることができる。

物質微分を展開すると、非定常加速度と移流加速度を分けて読める。定常流でも空間的に速度が変化すれば移流加速度は残る。

式 (2)オイラー方程式
ρDuDt=−∇p+ρb\rho\frac{\mathrm D\boldsymbol{u}}{\mathrm D t}=-\nabla p+\rho\boldsymbol{b}
式 (3)物質加速度を展開した形
ρ{∂u∂t+(u⋅∇)u}=−∇p+ρb\rho\left\{\frac{\partial\boldsymbol{u}}{\partial t}+(\boldsymbol{u}\cdot\nabla)\boldsymbol{u}\right\}=-\nabla p+\rho\boldsymbol{b}
05.

記号・単位

各項は単位体積当たりの力、すなわち N/m3\mathrm{N/m^3} の次元をもつ。式全体の単位を確認すると、密度や圧力勾配の入れ忘れを検出しやすい。

オイラー方程式で使う主な記号
記号意味SI単位
ρ\rho密度kg/m3\mathrm{kg/m^3}
u\boldsymbol{u}速度ベクトルm/s\mathrm{m/s}
p\boldsymbol{p}圧力Pa\mathrm{Pa}
b\boldsymbol{b}単位質量当たりの物体力m/s2\mathrm{m/s^2}
DuDt\frac{\mathrm D\boldsymbol{u}}{\mathrm D t}流体粒子の加速度m/s2\mathrm{m/s^2}
∇p\nabla p圧力勾配Pa/m\mathrm{Pa/m}
06.

運動量保存則からの導出

一般のコーシーの運動方程式では、表面力を応力テンソル σ\boldsymbol{\sigma} で表す。静止圧力と粘性応力 τ\boldsymbol{\tau} に σ=−pI+τ\boldsymbol{\sigma}=-p\boldsymbol{I}+\boldsymbol{\tau} と分解すると、圧力項と粘性項が現れる。

粘性応力の発散 ∇⋅τ\nabla\cdot\boldsymbol{\tau} を無視できる領域では式 (2) が得られる。したがってオイラー方程式は新しい保存則ではなく、運動量保存則に非粘性近似を置いた形である。

式 (4)コーシーの運動方程式
ρDuDt=−∇p+∇⋅τ+ρb\rho\frac{\mathrm D\boldsymbol{u}}{\mathrm D t}=-\nabla p+\nabla\cdot\boldsymbol{\tau}+\rho\boldsymbol{b}
式 (5)非粘性近似
∇⋅τ≈0\nabla\cdot\boldsymbol{\tau}\approx\boldsymbol{0}
07.

使用条件・適用外

非粘性とは粘度が数学的に0という意味に限らず、対象領域で粘性力が慣性力や圧力力に比べて十分小さい近似を指す。

適用しやすい
高レイノルズ数流れの壁面から離れた領域、自由噴流の主流部、外部流れの主流部。
適用しにくい
境界層、はく離域の詳細、細管内流れ、潤滑、粘性散逸や壁面摩擦が主要な問題。
圧縮性
圧縮性流れにも使えるが、連続の式・エネルギー式・状態方程式と連立する必要がある。
回転性
オイラー方程式は非回転流だけの式ではない。渦度をもつ非粘性流れにも適用できる [3]。
08.

例題:圧力勾配による加速

水平な非粘性流れの一点で、密度 ρ\rho = 1000 kg/m3\mathrm{kg/m^3}、流れ方向の物質加速度 Du/Dt\mathrm D\boldsymbol{u}/\mathrm D t = 2.0 m/s2\mathrm{m/s^2} とする。流れ方向の物体力を無視すると、必要な圧力勾配は式 (6) で求まる。

結果は −2000 Pa/m\mathrm{Pa/m} である。流れ方向へ1 m1\ \mathrm{m}進むごとに圧力が約2.0 kPa2.0\ \mathrm{kPa}低下し、その圧力差が流体を加速する。

式 (6)流れ方向の圧力勾配
dpdx=−ρDuDt=−(1000)(2.0)=−2000 Pa/m\frac{\mathrm dp}{\mathrm dx}=-\rho\frac{\mathrm Du}{\mathrm Dt}=-(1000)(2.0)=-2000\ \mathrm{Pa/m}
09.

ベルヌーイの式との関係

定常流で、重力だけを物体力として式 (2) を流線方向へ積分する。密度一定なら、圧力・運動エネルギー・位置エネルギーを結ぶベルヌーイの式が得られる。

したがってベルヌーイの式は独立した経験則ではなく、追加条件のもとでオイラー方程式を積分した結果である。非回転流なら同じ定数を流線間でも共有できる。

式 (7)流線に沿うベルヌーイの式
p+12ρu2+ρgz=一定p+\frac{1}{2}\rho u^2+\rho gz=\text{一定}
10.

よくある間違い

式を使う前に、粘性を落としてよい領域か、定常か、密度一定か、どの物体力を含めるかを分けて確認する。

定常なら加速度0
移流加速度 (u⋅∇)u(\boldsymbol{u}\cdot\nabla)\boldsymbol{u} は定常流でも残る。
非粘性なら壁面摩擦も表せる
壁面せん断応力は粘性に由来するためオイラー方程式では直接求められない。
オイラー方程式=ベルヌーイの式
前者は局所微分方程式、後者は追加条件のもとで積分した関係である。
圧力は流れ方向に必ず低下
減速流や重力の影響では、流れ方向へ圧力が上昇する場合もある。
11.

応用・次に学ぶ内容

オイラー方程式は、翼まわりの主流、圧縮性波動、ノズル、理想流体の渦運動、非粘性CFDの基礎となる。NASAも、粘性の影響が小さい外部流れでは有用だが、境界層の成長は表せないと説明している [3]。

次のナビエ–ストークス方程式では粘性応力を戻し、壁面摩擦や速度勾配による運動量拡散まで扱う。

参考文献