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CHAPTER02ARTICLE03

流体力学 / 保存則を立てる

FLUID MECHANICS · 02–03 / 基礎

ベルヌーイの式Bernoulli equation

流線に沿う圧力・速度・高さの関係を、機械的エネルギー保存として定式化する。

読了目安 11分2026-08-13出典照合済みEN version

要旨

ベルヌーイの式は、非粘性・非圧縮・定常流れにおける機械的エネルギー保存を表す。同じ流線上では、圧力、速度、高さの各項が相互に変換され、その総和が一定となる。

02. 30秒で理解

流線上の二点におけるエネルギー交換 高く太い管の点1から、低く細い管の点2へ流れ、圧力、速度、高さのエネルギーが交換される 点1 点2 V₁ V₂ 基準面 z₁ z₂
ベルヌーイの式は「流体の機械的エネルギー保存則」

同じ流線上で、圧力によるエネルギー、運動エネルギー、位置エネルギーの和を比較します。たとえば高さが同じ管で流速が増えると、損失のない理想流れでは静圧が下がります。

圧力流体を押すはたらきp/ρ
速さ運動によるエネルギーV²/2
高さ重力による位置エネルギーgz

03. 原理と数式

定常・非粘性・非圧縮の流れを、同じ流線上の点1と点2で比較すると、単位質量あたりの機械的エネルギーは次のように表されます。

単位質量あたりのベルヌーイの式
p/ρ + V²/2 + gz = const.
3項はいずれも単位質量あたりのエネルギーで、単位は J kg⁻¹、すなわち m² s⁻² です。
点1と点2を比較する形
p₁/ρ + V₁²/2 + gz₁ = p₂/ρ + V₂²/2 + gz₂
点1で持っていたエネルギーが、点2では圧力・速さ・高さの別の組み合わせに変わります。

水頭で表す形

式全体を g で割ると、各項を流体柱の高さとして比較できます。

p/(ρg) + V²/(2g) + z = const.
左から圧力水頭、速度水頭、位置水頭です。各項の単位は m です。

04. 記号・単位

記号物理量SI単位意味
p静圧Pa流体が周囲を押す圧力
ρ密度kg m⁻³単位体積あたりの質量
V流速m s⁻¹流線方向の速度の大きさ
g重力加速度m s⁻²標準重力加速度は 9.80665 m s⁻²
z基準面からの高さm位置エネルギーを決める高さ
q動圧Paq = ½ρV²

圧力には絶対圧でもゲージ圧でも使用できますが、点1と点2で同じ基準を使います。

05. 導出

粘性を無視した流体要素に、流線方向の運動方程式を適用します。これはオイラーの運動方程式を流線に沿って書いたものです。

  1. 流線方向の力のつり合い

    圧力勾配と重力が流体要素を加速させます。

    (1/ρ) dp + V dV + g dz = 0
  2. 密度一定として積分

    点1から点2まで各項を積分します。

    ∫₁² dp/ρ + ∫₁² V dV + ∫₁² g dz = 0
  3. 各項を評価

    圧力項、運動項、位置項をまとめるとベルヌーイの式になります。

    p/ρ + V²/2 + gz = C

重要:この導出は、流体の速度を「圧力だけ」が直接決めると言っているのではありません。

境界条件と運動方程式によって流れ場が決まり、その結果として同じ流線上の圧力・速度・高さがこの関係を満たします。

06. 使用条件

✓ 基本形を使える条件

・定常流れ

・非粘性、または損失を無視できる

・密度がほぼ一定

・同じ流線上の二点

・ポンプやタービンによる仕事がない

! そのまま使えない場合

・長い管や細い管で摩擦損失が大きい

・ポンプ、送風機、タービンを含む

・高速気体で密度変化が大きい

・強い非定常流れ

・異なる流線間を比較する回転流れ

実務では損失と機械仕事を加える

配管計算では、ポンプが加える水頭 hₚ と損失水頭 hL を含む機械的エネルギー式を使います。

p₁/(ρg) + V₁²/(2g) + z₁ + hₚ = p₂/(ρg) + V₂²/(2g) + z₂ + hL
現実の流れでは、粘性によって機械的エネルギーが熱へ散逸するため、損失水頭は通常0より大きくなります。

07. 例題

水平な縮小管で、下流の圧力を求める

密度 1000 kg m⁻³ の水が水平な管を流れています。点1の静圧は 200 kPa、平均流速は 2.0 m s⁻¹ です。点2の平均流速が 8.0 m s⁻¹ のとき、損失を無視して点2の静圧を求めます。

ρ = 1000 kg m⁻³
p₁ = 200 kPa
V₁ = 2.0 m s⁻¹
V₂ = 8.0 m s⁻¹
  1. 高さの項を消す

    水平なので z₁ = z₂ です。

  2. 点2の圧力について整理する
    p₂ = p₁ + (ρ/2)(V₁² − V₂²)
  3. 数値を代入する
    p₂ = 200000 + (1000/2)(2.0² − 8.0²) = 170000 Pa
p₂ = 170 kPa

検算:流速が増えた分だけ静圧は 30 kPa 下がります。現実の管では摩擦損失が加わるため、同じ入口条件なら下流圧力はこの理想値よりさらに低くなります。

08. 計算ツール

点1の状態から点2の静圧を計算

定常・非粘性・非圧縮の基本形を使用します。入力する二点の圧力基準と高さの基準面は統一してください。

kg m⁻³
kPa
m s⁻¹
m s⁻¹
m
m
点2の静圧 p₂170.000 kPa
静圧低下 p₁ − p₂30.000 kPa

例題の値で 170 kPa になることを確認済みです。摩擦損失、ポンプ仕事、圧縮性は含みません。

09. よくある間違い

速い流れは必ず低圧

同じ流線上で高さ、損失、機械仕事などの条件をそろえた場合の関係です。別々の流れを速度だけで比較することはできません。

連続の式と同じ

連続の式は質量保存、ベルヌーイの式は理想化した機械的エネルギー保存です。縮小管では両方を組み合わせます。

管内なら常に使える

長い配管や細い配管では粘性損失を無視できません。損失水頭を含む式が必要です。

全流線で同じ定数

一般にはベルヌーイ定数は流線ごとに異なります。非回転流れなら流線をまたいで同じ定数として扱えます。

翼の揚力を単独で説明

ベルヌーイの式は翼面の局所的な速度と圧力を関係づけますが、速度分布が生じる理由や全体の循環まで単独では決めません。「上下の空気が同時に後縁へ着く」という説明は誤りです。

10. 応用

ベンチュリ流量計ピトー静圧管ノズルサイフォンタンク流出翼まわりの圧力分布

実務では、連続の式から流速を求め、ベルヌーイの式または損失を含む機械的エネルギー式から圧力や必要ポンプ揚程を求める流れが基本です。

11. 前提知識・関連知識

前提知識

次につながる知識

出典

  1. 主出典Frank M. White, Fluid Mechanics, 9th ed., McGraw Hill, 2021. ベルヌーイの式、導出、適用条件の照合に使用。
  2. 大学資料MIT OpenCourseWare, “Bernoulli Equation, Pitot-Static Tube, Airspeed Measurement, and Pressure Nondimensionalization.” 式の形と計測への応用を照合。
  3. 補助資料NASA Glenn Research Center, “Bernoulli’s Equation.” 初学者向け説明、動圧、適用制限を確認。
  4. 単位・表記BIPM, The International System of Units (SI Brochure), 9th ed., revised 2026. Pa、m、s、kgとSI表記の確認に使用。
編集方針

主出典、独立した大学資料、公的機関資料、SI規格を相互照合しました。外部の流体工学専門家による独立査読は未実施です。