EngiAtlas 知識マップ
CHAPTER01ARTICLE04

流体力学 / 流れを記述する

FLUID MECHANICS · 01–04 / 発展

Euler記述・Lagrange記述Eulerian & Lagrangian descriptions

流れを固定点から見るEuler記述と、粒子を追うLagrange記述を、流れ写像と物質微分で接続します。

読了目安 10分2026-08-13定義・式・単位を出典照合EN version

要旨

Euler記述は速度や圧力を空間と時刻の場として表し、Lagrange記述は各粒子の運動を追跡する。両者は同じ運動を異なる独立変数で記述し、物質微分が場の変化と粒子が経験する変化を結ぶ。

φ(x, t)D/Dt∂/∂t + u·∇X(a, t)
02.

Euler記述:空間の点を固定する

Euler記述では、密度 ρ(x, t)、圧力 p(x, t)、速度 u(x, t) のように、物理量を空間座標 x と時刻 t の関数として表す。計測点、検査体積、計算格子は空間に固定され、そこを異なる流体粒子が通過する。

配管の固定位置に設置した圧力計や、固定格子上でNavier–Stokes方程式を解く一般的なCFDはEuler記述の例である。

式 (1)Euler場
ϕ=ϕ(x,t)\phi=\phi(\boldsymbol{x},t)
ϕ\phi
密度・温度・速度成分などの場[各物理量の単位]
x\boldsymbol{x}
固定した空間位置[m\mathrm{m}]
tt
時刻[s\mathrm{s}]
固定するもの
空間位置または検査体積
得意な問題
境界が固定された連続体の場、配管流、外部流、固定格子CFD
03.

Lagrange記述:粒子の同一性を固定する

初期時刻に粒子をラベル a で識別し、その粒子の現在位置を流れ写像 X(a, t) で表す。ラベル a を固定して時刻を進めれば、一つの粒子の位置、速度、温度などの履歴が得られる。

粒子追跡法、液滴・気泡の運動、自由表面や大変形を伴う問題では、Lagrange的な表現が自然である。ただし粒子分布が著しく変形すると、近傍関係や数値分解能の管理が難しくなる。

式 (2)流れ写像と粒子速度
dX(a,t)dt=u ⁣(X(a,t),t),X(a,t0)=a\frac{\mathrm d\boldsymbol{X}(\boldsymbol{a},t)}{\mathrm d t}=\boldsymbol{u}\!\left(\boldsymbol{X}(\boldsymbol{a},t),t\right),\qquad \boldsymbol{X}(\boldsymbol{a},t_0)=\boldsymbol{a}
a\boldsymbol{a}
粒子ラベル(初期位置)[m\mathrm{m}]
X(a,t)\boldsymbol{X}(\boldsymbol{a},t)
粒子 a の現在位置[m\mathrm{m}]
u\boldsymbol{u}
速度場[m/s\mathrm{m/s}]
固定するもの
流体粒子の同一性または粒子ラベル
得意な問題
粒子履歴、液滴・気泡、界面追跡、粒子法
04.

物質微分:二つの記述を接続する

Euler場 φ(x, t) を、移動粒子 x = X(a, t) に沿って観測する。合成関数 φ(X(a, t), t) を時間微分し、dX/dt = u を用いると物質微分が得られる [1, 2]。

右辺第1項は固定点での局所的な時間変化、第2項は粒子が空間勾配の中を移動することで生じる移流変化である。定常流では ∂φ/∂t = 0 でも、空間的に不均一なら粒子は変化を経験する。

式 (3)スカラー場の物質微分
DϕDt=∂ϕ∂t+u⋅∇ϕ\frac{\mathrm D\phi}{\mathrm D t}=\frac{\partial\phi}{\partial t}+\boldsymbol{u}\cdot\nabla\phi
Dϕ/Dt\mathrm D\phi/\mathrm D t
移動粒子が経験する変化率[ϕ/s\phi/\mathrm{s}]
∂ϕ/∂t\partial\phi/\partial t
固定点での局所変化率[ϕ/s\phi/\mathrm{s}]
u⋅∇ϕ\boldsymbol{u}\cdot\nabla\phi
移流による変化率[ϕ/s\phi/\mathrm{s}]
式 (4)流体粒子の加速度
a=DuDt=∂u∂t+(u⋅∇)u\boldsymbol{a}=\frac{\mathrm D\boldsymbol{u}}{\mathrm D t}=\frac{\partial\boldsymbol{u}}{\partial t}+(\boldsymbol{u}\cdot\nabla)\boldsymbol{u}
a\boldsymbol{a}
粒子加速度[m/s2\mathrm{m/s^2}]
∂u/∂t\partial\boldsymbol{u}/\partial t
局所加速度[m/s2\mathrm{m/s^2}]
(u⋅∇)u(\boldsymbol{u}\cdot\nabla)\boldsymbol{u}
移流加速度[m/s2\mathrm{m/s^2}]
05.

記述の選び方と組合せ

Euler記述とLagrange記述は異なる物理を表すのではなく、同じ運動の座標化が異なる。保存則を固定した検査体積で解くならEuler記述、個々の要素の履歴を求めるならLagrange記述が直接的である。

実務では両者を組み合わせる。例えば連続相の空気をEuler格子で解き、飛散する液滴をLagrange粒子として追跡するEuler–Lagrange法がある。選択基準は、どの量を保存・追跡したいか、境界がどう動くか、計算資源の制約は何かである。

記述法の比較
観点Euler記述Lagrange記述
独立変数空間位置 x、時刻 t粒子ラベル a、時刻 t
観測固定点を通過する粒子同じ粒子の時間履歴
代表的な数値法有限体積法・固定格子法粒子法・移動メッシュ法
主な課題移流項と界面の数値拡散粒子・メッシュの大変形

参考文献