FLUID MECHANICS · 03–04 / 応用
圧縮性とマッハ数Compressibility and Mach number
気体の密度変化を無視できる条件とマッハ数の意味を、音速、流れの領域、密度変化との関係、空気の計算例から理解します。
要旨
気体の流れでは、圧力や温度が変わると密度も変化する。流速が音速に近づくほど、この圧縮性の影響は無視できなくなる。マッハ数 M は流速 V と局所音速 a の比であり、圧縮性の重要度と、情報が流れの中をどのように伝わるかを判断する基本的な無次元数である。
30秒で理解
水のような液体では、多くの流れで密度をほぼ一定として扱える。一方、空気などの気体では、流速が高くなると圧力・温度・密度の変化が流れそのものへ強く影響する。この性質を圧縮性という。
圧縮性の重要度を判断する中心的な量がマッハ数 M = V/a である。M が小さい低速流では密度変化が小さい場合が多いが、M が1へ近づくと圧縮性を無視できず、局所的な超音速領域や衝撃波が現れ得る [1,2]。
圧縮性とは何か
圧縮性とは、圧力変化に伴って密度が変化する性質である。気体は液体より一般に圧縮されやすく、高速気流では運動エネルギーと内部エネルギーの変換によって温度・圧力・密度が連成して変化する。
「気体だから常に圧縮性流れとして解く」という意味ではない。密度変化が現象へ与える影響が十分小さければ、気体でも非圧縮近似を使える。逆に、圧力波、ノズル、衝撃波、高速飛翔体などでは密度変化が本質的である。
- 非圧縮近似
- 流れの中で密度変化を無視できるとみなし、ρを一定または既知として扱う。
- 圧縮性流れ
- 密度を圧力・温度などと連成して求める必要がある流れ。
マッハ数:流速と音速を比べる
局所流速 V と局所音速 a の比をマッハ数 M と定義する [1,2]。音速は小さな圧力擾乱が媒質中を伝わる速さであり、M は流れと圧力情報の伝播速度を比較している。
同じ300 m/sでも、温度や気体の種類が変われば音速が変わるため、マッハ数も変わる。高速流を議論するときは速度だけでなく、その場所の音速とセットで考える。
音速は温度で変わる
熱量的完全気体を仮定すると、音速 a は比熱比 γ、比気体定数 R、絶対温度 T から式 (2) で求められる [1]。空気では通常の温度範囲で γ ≈ 1.4、R ≈ 287 J/(kg·K) を代表値として使うことが多い。
式 (2) から、同じ気体では温度が高いほど音速が大きくなることが分かる。温度には摂氏温度ではなく絶対温度 K を使う。
記号・単位
マッハ数は無次元量である。流速と音速は同じ単位で比較し、温度は音速式では絶対温度を使う [4]。
| 記号 | 意味 | SI単位 |
|---|---|---|
| M | マッハ数 | — |
| V | 局所流速 | m/s |
| a | 局所音速 | m/s |
| ρ | 密度 | kg/m³ |
| p | 静圧 | Pa |
| T | 絶対温度 | K |
| γ | 比熱比 | — |
| R | 比気体定数 | J/(kg·K) |
亜音速・遷音速・超音速
M < 1 では流れは亜音速、M = 1 は音速条件、M > 1 では超音速である。M が1付近の遷音速域では、物体まわりの一部だけが局所的に超音速となり、衝撃波を伴うことがある [2]。
さらに高いマッハ数では空力加熱や実在気体効果が重要になる。したがって「超音速」という分類だけで必要なモデルが一意に決まるわけではない。
- M < 1
- 亜音速。圧力擾乱は上流方向にも伝わり得る。
- M ≈ 1
- 遷音速。局所超音速域と衝撃波が生じやすく、圧縮性の影響が強い。
- M > 1
- 超音速。流れに対して情報伝播の方向が制限され、衝撃波・膨張波が重要になる。
- M > 5
- 一般に極超音速と呼ばれ、高温・実在気体効果が重要になり得る [2]。
なぜMが大きいと密度変化が重要になるか
微小な等エントロピー変化を考えると、運動量式と音速の定義から、密度変化と速度変化の関係を式 (3) のように書ける。
式 (3) は、同程度の相対速度変化に対して、相対密度変化の大きさが M² に比例して増えることを示す。したがって低いMでは密度変化が小さくなりやすく、Mが1へ近づくほど非圧縮近似の妥当性を慎重に確認する必要がある。
例題:20 ℃の空気を250 m/sで流す
20 ℃の空気を熱量的完全気体とみなし、T = 293.15 K、γ = 1.40、R = 287 J/(kg·K) とする。流速 V = 250 m/s のとき、音速とマッハ数を求める。
式 (2) から音速は約343 m/sとなる。続いて式 (1)へ代入すると M ≈ 0.729 を得る。この流れは亜音速だが、Mが十分小さい低速流とはいえず、密度変化を無視する前に圧縮性の影響を評価するべき領域である。
使用条件と適用外
式 (2) は熱量的完全気体の音速式である。高温の極超音速流れでは比熱が温度によって変化し、振動励起・解離・電離などの実在気体効果を考慮する必要がある。
マッハ数は圧縮性を判断する基本量だが、粘性の重要度はReynolds数など別の無次元数で評価する。現象に応じて複数の相似パラメータを組み合わせる。
よくある間違い
マッハ数を計算するときは、流速だけでなく局所温度と気体の性質を確認する。
- Mは速度の単位
- M = V/a なので無次元量。Mach 0.8に m/s は付けない。
- 音速は常に340 m/s
- 音速は気体の種類と温度に依存する。340 m/sは空気の特定条件に近い代表値。
- M < 1なら非圧縮
- 亜音速でもMが1へ近づくと圧縮性の影響は大きい。
- Tへ20を代入
- a = √(γRT) の T は絶対温度。20 ℃なら293.15 Kへ変換する。
参考文献
参照日:2026年8月17日。外部専門家による査読は未実施です。