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CHAPTER03ARTICLE03

流体力学 / 流れを分類する

FLUID MECHANICS · 03–03 / 発展

境界層Boundary layers

壁面近くに生じる境界層を、非すべり条件、速度分布、境界層厚さ、壁面摩擦、平板上の例題から理解します。

読了目安 15分2026-08-14定義・式・単位を出典照合EN version

要旨

流体が物体表面に沿って流れると、壁面では非すべり条件により速度が零になる。一方、壁から十分離れた流れは主流速度を保つ。この速度差が現れる薄い領域が境界層であり、下流へ進むほど一般に厚くなる。境界層は、抗力、圧力損失、伝熱、流れの剝離を考える出発点である。

02.

30秒で理解

流体には粘度があるため、静止した壁に接する流体の速度は零になる。壁から離れるにつれて速度は増し、やがて壁の影響をほとんど受けない主流速度 U∞U_\inftyへ近づく [1,2]。

この速度変化が集中する壁面近くの領域を境界層という。境界層の外側では粘性の影響が小さくても、壁面摩擦や剝離は境界層内の速度分布によって決まる。

03.

壁の近くで何が起こるか

平板へ一様な流れが当たる場合を考える。前縁では、壁に触れた流体が急に減速する。その遅い流体が粘性によって隣の層を減速させるため、壁の影響は下流へ進むほど広い範囲へ伝わる。

図の曲線は各位置の速度分布である。壁面の u=0u=0から外側の U∞U_\inftyまで連続的に変化し、下流ほど主流速度へ達する高さが大きくなる。

平板上で成長する境界層壁面で零の速度が主流速度へ近づく速度分布と、下流へ厚くなる境界層を示す。U∞平板(壁面では u = 0)δ(x)下流ほど速度分布が広がる
04.

境界層厚さをどう定めるか

速度は数学的には少しずつ U∞U_\inftyへ近づくため、境界層の端を一本の明確な線として決められない。そこで工学では、局所速度 u\boldsymbol{u} が主流速度の99 %に達する高さを境界層厚さ δ\delta とすることが多い [1]。

δ\delta は流れの状態を表す便宜的な厚さであり、物質の境界ではない。流体粒子は境界層の内外を移動できる。

式 (1)非すべり条件
u(x,0)=0u(x,0)=0
式 (2)境界層厚さの定義
u ⁣(x,δ)=0.99U∞u\!\left(x,\delta\right)=0.99U_\infty
05.

前縁からのレイノルズ数

平板境界層では、前縁からの距離 xx を代表長さに使う。局所レイノルズ数 Rex\mathrm{Re}_x は、慣性と粘性の相対的な強さを表し、同じ流体と主流速度でも下流ほど大きくなる。

滑らかな平板でも遷移位置は、主流の乱れ、表面粗さ、圧力勾配、振動などで変わる。Rex≈5×105\mathrm{Re}_x\approx5\times10^5は代表的な目安であり、普遍的な境界値ではない [1,3]。

式 (3)平板の局所レイノルズ数
Rex=U∞xν=ρU∞xμ\mathrm{Re}_x=\frac{U_\infty x}{\nu}=\frac{\rho U_\infty x}{\mu}
06.

記号・単位

レイノルズ数は無次元量である。物理量とSI単位を分け、速度と動粘度の単位は分数表記で統一する [4]。

平板境界層で用いる記号とSI単位
記号意味SI単位
xx平板前縁からの距離m\mathrm{m}
yy壁面から垂直方向の距離m\mathrm{m}
u\boldsymbol{u}境界層内の局所速度m/s\mathrm{m/s}
U∞U_\infty境界層外側の主流速度m/s\mathrm{m/s}
δ\delta境界層厚さm\mathrm{m}
Rex\mathrm{Re}_x距離 x に基づく局所レイノルズ数—\text{—}
ρ\rho密度kg/m3\mathrm{kg/m^3}
μ\mu粘度Pa⋅s\mathrm{Pa{\cdot}s}
ν\nu動粘度m2/s\mathrm{m^2/s}
τw\tau_{\mathrm w}壁面せん断応力Pa\mathrm{Pa}
07.

層流平板の近似式

定常・非圧縮・ニュートン流体が、圧力勾配のない滑らかな平板上を層流で流れる場合、Blasius解から境界層厚さと摩擦係数を近似できる [1]。

式 (4) は、境界層が下流へ成長する一方、平板長さに対する相対厚さ δ/x\delta/x は Rex\mathrm{Re}_x が大きいほど小さくなることを示す。

式 (4)層流境界層厚さの近似
δ(x)≈5xRex\delta(x)\approx\frac{5x}{\sqrt{\mathrm{Re}_x}}
定常・非圧縮・ニュートン流体・滑らかな平板・零圧力勾配・層流
式 (5)局所摩擦係数
Cf,x=0.664RexC_{f,x}=\frac{0.664}{\sqrt{\mathrm{Re}_x}}
式 (4) と同じ条件
08.

例題:平板上の境界層厚さ

20 ℃の空気が主流速度 U∞=10 m/sU_\infty=10\ \mathrm{m/s}で滑らかな平板に沿って流れる。動粘度を ν=1.5×10−5 m2/s\nu=1.5\times10^{-5}\ \mathrm{m^2/s}とし、前縁から x=0.50 mx=0.50\ \mathrm{m} の位置における境界層厚さを求める。

式 (3) から Rex≈3.33×105\mathrm{Re}_x\approx3.33\times10^5となり、遷移の代表的な目安より小さいため、ここでは層流近似を用いる。式 (4)へ代入すると δ≈0.0043 m=4.3 mm\delta\approx0.0043\ \mathrm{m}=4.3\ \mathrm{mm} を得る。

平板境界層厚さの例題条件20度の空気が毎秒10メートルで平板上を流れ、前縁から0.50メートルの位置で境界層厚さを求める。
U∞=10 m/sU_\infty=10\ \mathrm{m/s}
x=0.50 mx=0.50\ \mathrm{m}
δ≈4.3 mm\delta\approx4.3\ \mathrm{mm}
空気 20 ℃
ν=1.5×10−5 m2/s\nu=1.5\times10^{-5}\ \mathrm{m^2/s}
模式図
式 (6)局所レイノルズ数
Rex=10×0.501.5×10−5≈3.33×105\mathrm{Re}_x=\frac{10\times0.50}{1.5\times10^{-5}}\approx3.33\times10^5
式 (7)境界層厚さ
δ≈5×0.503.33×105≈4.3 mm\delta\approx\frac{5\times0.50}{\sqrt{3.33\times10^5}}\approx4.3\ \mathrm{mm}
09.

圧力上昇と境界層の剝離

流れ方向へ圧力が上がる逆圧力勾配では、壁面近くの遅い流体が下流へ進みにくくなる。速度勾配と壁面せん断応力が小さくなり、やがて壁面近くで逆流が生じると境界層は表面から剝離する。

剝離は大きな後流と圧力抗力を生み、翼の失速、ディフューザの損失、曲がり部の流れに関係する。物体形状を滑らかにする目的の一つは、急な圧力上昇を避けて剝離を遅らせることである。

10.

使用条件と適用外

式 (4)・(5)は、零圧力勾配の滑らかな平板上にある層流境界層の近似である。曲面、強い圧力勾配、吸込み・吹出し、粗面、乱流境界層にはそのまま使わない。

高速流では密度・温度・粘度の変化を考慮する必要がある。境界層厚さが物体寸法に比べて十分小さくない場合も、薄い境界層を仮定した近似の精度を確認する。

11.

よくある間違い

境界層の式を使う前に、流れの状態、代表長さ、圧力勾配、表面条件を確認する。

境界層の外では粘度が零
粘度は流体の物性として存在する。外側では速度勾配が小さく、粘性項の影響を近似的に無視できる。
δ は固定された物質面
δ\delta は速度が0.99U∞0.99U_\inftyへ達する高さとして定める便宜的な尺度である。
Re_D の遷移値を使う
平板では Rex\mathrm{Re}_x を使い、遷移条件も円管とは異なる。
剝離点を δ だけで決める
剝離は壁面速度勾配とせん断応力、圧力勾配から判断する。

参考文献