FLUID MECHANICS · 03–03 / 発展
境界層Boundary layers
壁面近くに生じる境界層を、非すべり条件、速度分布、境界層厚さ、壁面摩擦、平板上の例題から理解します。
要旨
流体が物体表面に沿って流れると、壁面では非すべり条件により速度が零になる。一方、壁から十分離れた流れは主流速度を保つ。この速度差が現れる薄い領域が境界層であり、下流へ進むほど一般に厚くなる。境界層は、抗力、圧力損失、伝熱、流れの剝離を考える出発点である。
30秒で理解
流体には粘度があるため、静止した壁に接する流体の速度は零になる。壁から離れるにつれて速度は増し、やがて壁の影響をほとんど受けない主流速度 へ近づく [1,2]。
この速度変化が集中する壁面近くの領域を境界層という。境界層の外側では粘性の影響が小さくても、壁面摩擦や剝離は境界層内の速度分布によって決まる。
壁の近くで何が起こるか
平板へ一様な流れが当たる場合を考える。前縁では、壁に触れた流体が急に減速する。その遅い流体が粘性によって隣の層を減速させるため、壁の影響は下流へ進むほど広い範囲へ伝わる。
図の曲線は各位置の速度分布である。壁面の から外側の まで連続的に変化し、下流ほど主流速度へ達する高さが大きくなる。
境界層厚さをどう定めるか
速度は数学的には少しずつ へ近づくため、境界層の端を一本の明確な線として決められない。そこで工学では、局所速度 が主流速度の99 %に達する高さを境界層厚さ とすることが多い [1]。
は流れの状態を表す便宜的な厚さであり、物質の境界ではない。流体粒子は境界層の内外を移動できる。
前縁からのレイノルズ数
平板境界層では、前縁からの距離 を代表長さに使う。局所レイノルズ数 は、慣性と粘性の相対的な強さを表し、同じ流体と主流速度でも下流ほど大きくなる。
滑らかな平板でも遷移位置は、主流の乱れ、表面粗さ、圧力勾配、振動などで変わる。は代表的な目安であり、普遍的な境界値ではない [1,3]。
記号・単位
レイノルズ数は無次元量である。物理量とSI単位を分け、速度と動粘度の単位は分数表記で統一する [4]。
| 記号 | 意味 | SI単位 |
|---|---|---|
| 平板前縁からの距離 | ||
| 壁面から垂直方向の距離 | ||
| 境界層内の局所速度 | ||
| 境界層外側の主流速度 | ||
| 境界層厚さ | ||
| 距離 x に基づく局所レイノルズ数 | ||
| 密度 | ||
| 粘度 | ||
| 動粘度 | ||
| 壁面せん断応力 |
層流平板の近似式
定常・非圧縮・ニュートン流体が、圧力勾配のない滑らかな平板上を層流で流れる場合、Blasius解から境界層厚さと摩擦係数を近似できる [1]。
式 (4) は、境界層が下流へ成長する一方、平板長さに対する相対厚さ は が大きいほど小さくなることを示す。
例題:平板上の境界層厚さ
20 ℃の空気が主流速度 で滑らかな平板に沿って流れる。動粘度を とし、前縁から の位置における境界層厚さを求める。
式 (3) から となり、遷移の代表的な目安より小さいため、ここでは層流近似を用いる。式 (4)へ代入すると を得る。
圧力上昇と境界層の剝離
流れ方向へ圧力が上がる逆圧力勾配では、壁面近くの遅い流体が下流へ進みにくくなる。速度勾配と壁面せん断応力が小さくなり、やがて壁面近くで逆流が生じると境界層は表面から剝離する。
剝離は大きな後流と圧力抗力を生み、翼の失速、ディフューザの損失、曲がり部の流れに関係する。物体形状を滑らかにする目的の一つは、急な圧力上昇を避けて剝離を遅らせることである。
使用条件と適用外
式 (4)・(5)は、零圧力勾配の滑らかな平板上にある層流境界層の近似である。曲面、強い圧力勾配、吸込み・吹出し、粗面、乱流境界層にはそのまま使わない。
高速流では密度・温度・粘度の変化を考慮する必要がある。境界層厚さが物体寸法に比べて十分小さくない場合も、薄い境界層を仮定した近似の精度を確認する。
よくある間違い
境界層の式を使う前に、流れの状態、代表長さ、圧力勾配、表面条件を確認する。
- 境界層の外では粘度が零
- 粘度は流体の物性として存在する。外側では速度勾配が小さく、粘性項の影響を近似的に無視できる。
- δ は固定された物質面
- は速度がへ達する高さとして定める便宜的な尺度である。
- Re_D の遷移値を使う
- 平板では を使い、遷移条件も円管とは異なる。
- 剝離点を δ だけで決める
- 剝離は壁面速度勾配とせん断応力、圧力勾配から判断する。