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CHAPTER03ARTICLE02

流体力学 / 流れを分類する

FLUID MECHANICS · 03–02 / 発展

層流と乱流Laminar and turbulent flow

層流・遷移・乱流の違いを、染料線、速度分布、レイノルズ数、混合と圧力損失、図付きの円管例題から理解します。

読了目安 15分2026-08-14定義・式・単位を出典照合EN version

要旨

層流では流体粒子が隣の層と大きく混ざらず、速度変動の小さい整った流れをつくる。乱流では大小の渦と不規則な速度変動が生じ、運動量や熱が横方向へ強く運ばれる。円管内流ではレイノルズ数を第一の目安にするが、遷移は入口の乱れ、振動、壁面粗さなどにも左右される。

02.

30秒で理解

細い管へ染料を静かに入れ、流速を小さくすると、染料は一本の線を保ったまま流れる。これが層流である。流速を上げると染料線は揺らぎ、やがて管全体へ広がる。この不規則に混ざる状態が乱流である [1,2]。

層流と乱流は、単に『きれいな流れ』と『乱れた流れ』という見た目の違いではない。速度分布、混ざりやすさ、壁面摩擦、圧力損失が変わるため、配管・熱交換器・流量計などの設計結果にも直接影響する。

03.

何が違うのか

層流でも流体粒子は下流へ移動するが、平均的には隣の層を横切る大きな動きが少ない。混合は主に分子拡散に頼るため、熱や物質が横方向へ伝わる速さは比較的小さい。

乱流では、平均流れに重なって速度が時間的・空間的に変動する。渦運動が流体の塊を横方向へ運ぶため、運動量・熱・物質の交換が大きくなる [4]。瞬間の流れは不規則でも、時間平均した速度や圧力には再現性のある分布が現れる。

層流
速度変動が小さく、流体粒子はおおむね層を保って進む。
乱流
三次元的な速度変動と渦運動により、流体が横方向にも強く混ざる。
遷移流
層流と乱流が時間的・空間的に入れ替わり、外乱の影響を強く受ける。
04.

染料線で流れを見る

Reynoldsの実験では、透明な円管へ細い染料線を注入して流れを観察した。低い流速では染料線が細く保たれ、流速を上げると線が揺らいで管断面へ拡散した [2]。

染料が広がること自体が乱流の定義ではない。重要なのは、速度変動が横方向の輸送を生み、染料を運んでいる点である。分子拡散だけでも染料は徐々に広がるが、その速さは乱流混合より小さい。

層流乱流染料線が細く保たれる速度変動が染料を横へ運ぶ
05.

円管ではレイノルズ数を目安にする

円管内流では、管内径 DD、断面平均速度 VV、密度 ρ\rho、粘度 μ\mu から ReD\mathrm{Re}_D を求める。十分に長い滑らかな円管では、ReD<2300\mathrm{Re}_D<2300を層流、2300–40002300\text{–}4000付近を遷移域、ReD>4000\mathrm{Re}_D>4000を乱流とする区分が、工学計算の一般的な目安である [1]。

この区分は、2300を1だけ超えると流れ全体が突然乱流になるという意味ではない。管内流の遷移は有限の外乱によって起こり、外乱を非常に小さくすれば高い ReD\mathrm{Re}_D でも層流が保たれる場合がある [3]。

式 (1)円管のレイノルズ数
ReD=ρVDμ=VDν\mathrm{Re}_D=\frac{\rho V D}{\mu}=\frac{V D}{\nu}
06.

速度分布はどう変わるか

十分に発達した円管内の層流では、速度分布は放物線形になる。壁面では非すべり条件により速度が零、管中心では最大となり、中心速度は断面平均速度 VV の2倍である。

乱流の時間平均速度分布は、層流より中央部が平らで、壁面近くで急に零へ近づく。渦が高速の流体と低速の流体を交換し、管中央の運動量を壁面近くへ運ぶためである。

式 (2)発達した円管層流の速度分布
u(r)=2V[1−(rR)2]u(r)=2V\left[1-\left(\frac{r}{R}\right)^2\right]
定常・非圧縮・ニュートン流体・十分に発達した円管層流
07.

混合と圧力損失への影響

乱流混合は、熱交換器や反応器では熱・物質移動を促進する。一方、壁面へ運ばれる運動量も増えるため、同じ管・同じ平均速度で比べると、一般に乱流のほうが壁面せん断応力と圧力損失が大きい。

発達した円管層流のDarcy摩擦係数 ff は式 (3) で厳密に求められる。乱流の ff はレイノルズ数だけでなく相対粗さにも依存し、ムーディ線図やColebrook式などの相関式を用いる。

式 (3)円管層流のDarcy摩擦係数
f=64ReDf=\frac{64}{\mathrm{Re}_D}
十分に発達した円管層流
08.

記号・単位

レイノルズ数と摩擦係数は無次元量である。粘度 μ\mu のSI単位は Pa⋅s\mathrm{Pa{\cdot}s}、動粘度 ν\nu のSI単位は m2/s\mathrm{m^2/s} である [5]。

層流・乱流の判定に用いる記号とSI単位
記号意味SI単位
ReD\mathrm{Re}_D管内径を代表長さとするレイノルズ数—\text{—}
VV断面平均速度m/s\mathrm{m/s}
DD管内径m\mathrm{m}
RR管半径m\mathrm{m}
rr管中心からの半径方向位置m\mathrm{m}
ρ\rho密度kg/m3\mathrm{kg/m^3}
μ\mu粘度Pa⋅s\mathrm{Pa{\cdot}s}
ν\nu動粘度m2/s\mathrm{m^2/s}
ffDarcy摩擦係数—\text{—}
09.

例題:同じ円管で流速を変える

20 ℃の水が内径 D=0.020 mD=0.020\ \mathrm{m} の滑らかな円管を流れる。ρ=998 kg/m3\rho=998\ \mathrm{kg/m^3}、μ=1.002×10−3 Pa⋅s\mu=1.002\times10^{-3}\ \mathrm{Pa{\cdot}s} とし、層流上限の目安 ReD=2300\mathrm{Re}_D=2300と乱流域の目安 ReD=4000\mathrm{Re}_D=4000に対応する平均速度を求める。

式 (1) を VV について解いた式 (4)へ代入すると、式 (5)の結果を得る。したがって V=0.08 m/sV=0.08\ \mathrm{m/s}なら層流域、V=0.16 m/sV=0.16\ \mathrm{m/s}なら遷移域、V=0.30 m/sV=0.30\ \mathrm{m/s}なら乱流域の目安となる。

水 20 ℃・管内径 D = 0.020 m
V=0.08 m/sV=0.08\ \mathrm{m/s}
ReD=1.59×103\mathrm{Re}_D=1.59\times10^3
層流域
V=0.16 m/sV=0.16\ \mathrm{m/s}
ReD=3.19×103\mathrm{Re}_D=3.19\times10^3
遷移域
V=0.30 m/sV=0.30\ \mathrm{m/s}
ReD=5.98×103\mathrm{Re}_D=5.98\times10^3
乱流域
式 (4)判定境界に対応する平均速度
V=ReDμρDV=\frac{\mathrm{Re}_D\mu}{\rho D}
式 (5)層流域と乱流域の速度目安
V2300≈0.116 m/s,V4000≈0.201 m/s\begin{aligned}V_{2300}&\approx0.116\ \mathrm{m/s},\\V_{4000}&\approx0.201\ \mathrm{m/s}\end{aligned}
10.

使用条件と適用外

2300と4000の目安は、円管の内径と断面平均速度で定義した ReD\mathrm{Re}_D に対するものである。平板境界層、噴流、開水路、回転流れでは、代表長さと遷移機構が異なる。

非ニュートン流体では粘度がせん断速度に依存するため、通常の ReD\mathrm{Re}_D をそのまま使えない場合がある。また、脈動流・急加速流・短い入口区間では、定常で十分に発達した円管流の判定や速度分布を直接適用しない。

11.

よくある間違い

流れの名称だけで判断せず、対象、代表長さ、平均速度、物性温度を一緒に記録する。

乱流=流れが速い
速さだけでは決まらない。寸法、密度、粘度を含む Re\mathrm{Re} で比較する。
遷移域を乱流と断定
遷移域は外乱に敏感で、層流域と乱流域が混在することがある。
乱流では平均値が使えない
瞬間値は変動しても、時間平均した速度・圧力・損失を工学計算に使える。
乱流では粘性を無視できる
壁面近くのせん断と散逸には粘性が不可欠である。
12.

応用

配管の圧力損失、流量計の選定、熱交換器の伝熱、反応器の混合、クリーンルームの気流、潤滑膜、マイクロ流路などでは、層流か乱流かを最初に判定する。

層流は予測しやすく穏やかだが混ざりにくい。乱流は混合・伝熱に有利だが、圧力損失、振動、騒音を増やす場合がある。目的に応じて、流れの状態を避けるのではなく選ぶ。

参考文献